はかなさを感じたことはない。
[#ここから2字下げ]
ひとりきいてゐてきつつき
[#ここで字下げ終わり]
思案にあまって、山路をさまようて、聞くともなく、そして見るともなく、啄木鳥に出逢ったのであった。
私は殆んど捨鉢な気分にさえ堕在していた。憂鬱な暑苦しい日夜であった。私はどうにかせずにはいられないところまでいっていたのである。
だが、私はこんなに未練ぶかい男ではなかった筈だ。むろん人間としての執着は捨て得ないけれど、これほど執着するだけの理由がどこにあるか。何事も因縁時節である、因縁が熟さなければ、時節が到来しなければ何事も実現するものではない。なるようになれではいけないが、なるようにしかならない世の中である。行雲流水の身の上だ、私は雲のように物事にこだわらないで、流れに随って行動しなければならない。
去ろう、去ろう、川棚を去ろう。さらば川棚よ、たいへんお世話になった。私は一生涯川棚を忘れないであろう。川棚よ、さらば。
[#ここから2字下げ]
けふはおわかれの糸瓜がぶらり
[#ここで字下げ終わり]
私の心は明るいとはいえないまでも重くはなかった。私の行手には小郡があった
前へ
次へ
全11ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング