あなたこなたと歩きつづけて、熊本に着いたのはもう年の暮だった。街は師走の賑やかさであったが、私の寝床はどこにも見出せなかった。
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霜夜の寝床が見つからない
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 これは事実そのままを叙したのであるけれど、気持を述べるならば、
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霜夜の寝床がどこかにあらう
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となる。じっさい、そういう気持でなければこういう生活が出来るものでない。しかしこれらの事実や気持の奥に、叙するよりも、述べるよりも、詠うべき或物が存在すると思う。
 ようやくにして、場末の二階を間借りすることが出来た。そしてさっそく『三八九』を出すことになった、当面の問題は日々の米塩だったから(ここでもまた、井師、緑平老、元寛、馬酔木、寥平の諸兄に対して感謝の念を新らしくする)。
 明けて六年、一月二月三月と調子よく万事運ぶようであったが、結局はよくなかった。内外から破綻した。ただに私自身が傷ついたばかりでなく、私の周囲の人々をも傷つけるような破目になった。
 事の具体的記述は避けよう、過去の不愉快を繰り返して味わいたくないから。
 私はまた旅
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