永い冬の間かたくとざされていた池の氷が春の陽に解け出したように、フトときめきをおぼえた。

       二

 父親の源治が神経痛であまり働けないために、佐太郎は農業学校を卒業すると同時に、田圃に下りて働いたが、教壇からもドン/\戦地にもつて行かれて教員の不足になやみはじめた学校が、多少でも教育のある者の援助を求めるようになり、佐太郎も村では数少い中等学校の卒業者というので、望まれて隣村の高等小学校に、毎日二、三時間の授業をうけもつようになつた。
 その女子の高等二年の教室で、初世はもつとも佐太郎の眼をひきつける頬の紅いボツと眼のうるんだ娘であつた。が、翌る年の三月末の卒業式と同時に、初世は佐太郎の眼の前から姿を消した。それ以来幾月というもの、自転車での学校の行き帰りの路でも、ついぞその姿を見かけることがなく、初世はやがて佐太郎の念頭からきれいに消え去りかけていた。
 ところが、その秋の稲刈前の村の神明社の祭に、佐太郎は久しぶりにヒヨツコリ初世の姿を見かけた。初世は同じ年頃の娘たち四、五人連れであつた。佐太郎の方もまた、村の仲間の秀治と友一との三人連れだつた。子供のオモチヤや、小娘た
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