か」
「誰がわざ/\冗談を言いに来るかよ、ほかの家には行かないが、佐太郎さんになら行くとこういう話だ、はツは」
かね/″\初世の婚期が過ぎるのを心配していた叔父の千代助が、初世に直接あたつて根掘り葉掘りきいてみると、佐太郎の家が働き手がなくて困つているらしいという話だが、あんな家なら嫁に行つて田圃を仕付けてやりたいという、意外な返事であつた。
「本当の話なら、拝んで貰うよ」
源治はムツクリと寝床から起き上つた。それなり、もう再び寝込まなかつた。
善は急げで、話はトン/\拍子に運んで、やがて角かくしも重々しい初世は、佐太郎の軍服姿の写真の前で、三々九度の盃を重ねて、直きに源治の家の人となつた。そして三日目からは、もう初世の若々しい姿が、源治の田圃に見出された。真新しい菅笠の真紅なくけ紐をふくらんだ顎にクツキリと食いこませたその姿が、終日家裏の苗代で動いていた。
「源治は仕合せ者だよ、あんないい嫁をもつてな」
村の人々はそういう風に評判した。いくら手不足でも、この村ではまだ女で馬をつかうのは見かけなかつたが、やがて初世は馬耕をやりはじめたからであつた。そうして春野を殆ど一手でこなし
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