かれた源治は、それからまた一年足らずのうちに、佐太郎が出征したあとに頼んだ若勢(作男)の武三に暇を出さなければならないことになつて、ハタと当惑した。
佐太郎の弟妹はまだ学校で、それが助けになるのは、まだ三年もあとのことであつた。一町五段歩の田圃を、神経痛で半人前も働けない自分一人でやり了せる見込は、源治にはどうしても立たなかつた。タミは病身で苦い頃から田圃には殆ど下りたことがなかつた。
若勢を頼みたくても、男という男がみんな田圃からひツこぬかれて行つてしまつているこのごろ、金の草鞋でさがし廻つてもみつからなかつた。それで、武三をこれまで通りに置いて呉れるよう、父親の竹松に再三再四拝まんばかりに頼んだが、竹松はどうしても首をタテに振らなかつた。
竹松は近く渡満する開拓団に加つて、武三を連れて行くというのであつた。開拓が目的なのではなかつた。そつちに行つている伜に会いたい一心からであつた。
その部隊が内地を発つて以来、しばらく消息を断つていた長男の松太が、牡丹江にいるということが、やはり兵隊で満洲に行つている部落の常次郎の手紙でこのごろ知れた。すると竹松は矢も楯もたまらず、是が非で
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