つてしまつた。自分の行為が空恐ろしくなるとともに、女に対する興奮が急に冷却してしまつた。
いつたい初世はどういう気持なのだろうか。翌る日になつても、佐太郎には何が何だかサツパリわからなかつた。これまでのあらゆる場合をそつくり思いかえしてみても、初世が自分をきらつている証拠らしいものは、一つとして思い出せない。それなのに、頑強に最後のものを拒んだ、ほんとに好きなら、あんなに拒むはずがない。と言つても、きらいだという顔をしたこともない。
佐太郎は結局わからなくなつてしまつて、秀治に相談を持ちかけた。
「はツはツは――決つてるじやないか、それは――きらわれたんだよ」
秀治は東京の工作機製作工場に出ていたのを、兄が出征したために、この夏の田植から家に戻つて来て働いていた。その工場の友だちに与太者がかつたものがいたせいか、村に帰つても不良じみたものを時々のぞきこませ、女のことでも問題を起していた。
都会にいた印みたいに、変に陰気な隈どりのある顔をゆがめて、秀治は笑いとばした。
「どうしてだよ、いやな顔一つしたことがないんだよ」
背丈こそ秀治が仰向いて見るほど高くても、キリツとした眉の下の瞳に、まだ子供ツぽい光があふれている佐太郎は、謎でも解くようにその眼をパチ/\とまたたいた。
「そりや、女ツてやつはな、いやな奴だからつて、必ずしもいやな顔は見せないさ、自分を誰にでも好かれる女だと思いこみたいのが、女の本性だからな」
「そうかな」
参つたというように、佐太郎は小首をかしげてうなずいた。
なるほどそう言えば、いやなのを無理におさえて素振りに出さないという硬い顔つきをしていた初世の、この間の晩の幾度かの場合を思い出すことができた。
「それほど好かれていない男だつて、そんなことになつたときには大概大丈夫なもんだよ、それが飽くまでも肱鉄砲と来たんだから間違いなくきらわれている証拠だよ、はツはツは」
これと見こんだら、どんな女でもものにしてみせると、つね/″\豪語している秀治は、そういうつまらない自惚から、女というものをそんな風にかんたんに考えているのだつた。
「はツはツは――あんな者、あつさりあきらめろよ、娘なんて、いくらでもごろ/\してるじやないか」
女にかけてはまるでウブな佐太郎は、したたか者といわれる秀治にそんな風にあしらわれると、なるほど女というものはそんな
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