行った。そこで、一本の樹の幹のうしろから首が――五つとも――飛び※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]って、そして飛び※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]りながら談笑しているのを見た。首は地の上や樹の間で見つけた虫類を喰べていた。やがて主人の首が喰べる事を止めて云った、
「ああ、今夜来たあの旅の僧、――全身よく肥えているじゃないか、あれを皆で喰べたら、さぞ満腹する事であろう。……あんな事を云って、つまらない事をした、――だからおれの魂のために、読経をさせる事になってしまった。経をよんでいるうちは近よる事がむつかしい。称名を唱えている間は手を下す事はできない。しかしもう今は朝に近いから、たぶん眠ったろう。……誰かうちへ行って、あれが何をしているか見届けて来てくれないか」
 一つの首――若い女の首――が直ちに立ち上って蝙蝠のように軽く、家の方へ飛んで行った。数分の後、帰って来て、大驚愕の調子で、しゃがれ声で叫んだ、
「あの旅僧はうちにいません、――行ってしまいました。それだけではありません。もっとひどい事には、主人の体を取って行きました。どこへ置いて行ったか分りません」
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