った。
直ちに――何か犯罪を想像しながら――彼はびっくりして立った。しかし、つぎに彼はそこに血の流れていない事と、頭は斬られたようには見えない事に気がついた。それから彼は考えた。「これは妖怪に魅《ばか》されたか、あるいは自分はろくろ首の家におびきよせられたのだ。……「捜神記」に、もし首のない胴だけのろくろ首を見つけて、その胴を別の処にうつしておけば、首は決して再びもとの胴へは帰らないと書いてある。それから更にその書物に、首が帰って来て、胴が移してある事をさとれば、その首は毬のようにはねかえりながら三度地を打って、――非常に恐れて喘ぎながら、やがて死ぬと書いてある。ところで、もしこれがろくろ首なら、禍をなすものゆえ、――その書物の教え通りにしても差支はなかろう」……
彼は主人の足をつかんで、窓まで引いて来て、からだを押し出した。それから裏口に来てみると戸が締っていた。それで彼は首は開いていた屋根の煙出しから出て行った事を察した。静かに戸を開けて庭に出て、向うの森の方へできるだけ用心して進んだ。森の中で話し声が聞えた、それでよい隠れ場所を見つけるまで影から影へと忍びながら――声の方向へ
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