すんでいないようだから。もしこの僧の云う事が本当なら、首を見れば分る。……首をここへ持って来い」
 囘龍の背中からぬき取った衣にかみついている首は、裁判官達の前に置かれた。老人はそれを幾度も※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]して、注意深くそれを調べた。そして頸の項《うなじ》にいくつかの妙な赤い記号らしいものを発見した。その点へ同僚の注意を促した。それから頸の一端がどこにも武器で斬られたらしい跡のない事を見せた。かえって落葉が軸から自然に離れたように、その頸の断面は滑らかであった。……そこで老人は云った、
「僧の云った事は全く本当としか思われない。これはろくろ首だ。「南方異物志」に、本当のろくろ首の項《うなじ》の上には、いつでも一種の赤い文字が見られると書いてある。そこに文字がある。それはあとで書いたのではない事が分る。その上甲斐の国の山中にはよほど昔から、こんな怪物が住んでおる事はよく知られておる。……しかし」囘龍の方へ向いて、老人は叫んだ――「あなたは何と強勇なお坊さんでしょう。たしかにあなたは坊さんには珍らしい勇気を示しました。あなたは坊さんよりは、武士の風がありますな。た
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