合せてため息をついた。つかれてはゐたけれどもどうしてもそこには泊る気にはなれなかつたのである。

         二

 アカシヤやブナやハクヨウが一面に深くしげつて、わけて行く草道は、ともすれば人の肩を没するほどそれほど深かつた。細長い谷は五町ぐらゐの狭い幅で、右にも左にも前にも後にも樹や影の深い山巒が高く高くおほひ重なつた。それに、爪先上りになつてゐる路は、行つても行つても容易に尽きやうとはしなかつた。
「これはさつき通つて来た路ぢやないね?」
「さうだ……さつきは、向うだつた」
「これで好いのかね?」
 支那語を片語でやるSが一行の不安を表して、何遍も何遍もしつこく聞いて見たけれども、唯だ大丈夫だとばかりで、案内者はぐんぐん彼等の先に立つて歩いて行つた。
「本当に大丈夫かな?」
 BはHにいつた。
 Hも不安さうだ。曇つた顔をしてちよつと立留まつたが、「でも、為方がありますまい。ついて行くより?」
「………………」
 BもKも歩いた。
 どうも方角が全く違つてゐるやうにかれ等には感じられた。しかしかれ等は何も言はなかつた。かれ等は疲れはてゝもゐた。もしここに馬賊が出て、持つてゐ
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