くつて、あいつ等がすぐそれになるのかも知れないからな……こんなところにとても泊れないよ。こんな山の中では、殺されたつて、永久にわかりやせんからな。第一日本の官憲の力だつて、あそこまでは入つて行けないからね……」
「本当だとも――」
「そいつだつて、何だかわかりやしない。彼奴等の廻しものかも知れない」Hはかういつて、少し前に歩いて行く支那人の案内者をあご[#「あご」に傍点]で指した。
皆は一層不安になつた。たれの頭にも、その山寺の一室のさまが気味わるくうつつた。肥つた大きな男、わるこすさうな眼つきをした坊主、床の上にあぐらをかいて坐つてゐる統領らしいおやぢ、どう考へて見ても水滸伝の中にある光景としかかれ等には思はれなかつた。それはかれ等とて毒の入つたまん頭やしびれ薬の雑ぜられてある酒なぞがそこにあらうとは思はなかつたけれども、今朝から持つてゐる不安――その山の中ではいつ馬賊に出会すかわからないといつたやうな不安が、絶えずかれ等をおびやかして、山越しに、否、むしろ岩石づたひに辛うじてそこに行着いた時には、どうして好奇にこんな山の中に入つて来たかと後悔されたのであつた。皆はそこで互に眼を見
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