り案内者であるSが、「しかし、もう、お疲れでせう。何しろ、昨夜《ゆふべ》も夜行で碌にお休みにはなれないところに、すぐつゞいてこの客ですから――もうお休みになる方が好いでせう」と言つて、まだ話したさうにしてゐた二三人の客を伴れて起ち上つた時には、Bは始めてほつとした。Bは思はず溜息をついた。
Sは暇《いとま》を告げながら、
「それでは明日《あした》はゆつくり上《あが》つて好いですね? 僕はちよつと私用もありますししますから」
「え、何うぞ――」
「先生も静かにお休みなさい。東京の奥さんの夢でも御覧なさい……」
「難有《ありがた》う……」Bはわざと外国風にSの手を握つて、「それよりも、君の私用も何んな私用だかあやしいもんだね。うまい私用ではないかね?」
「そんなことはありません。いくら僕がハルピンが好きでも、さういふものはありませんよ。矢張、先生と同じですよ。東京の郊外に置いて来た嚊《かゝ》の夢でも見るだけですよ」
「何うだかわからんね? でなくつては、いくら好きでもハルピンに年に三四度もやつて来る筈はないよ」
「まア、その辺のところは先生の想像に任せますよ」Sはもう外に出てゐる二三人の
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