一室
田山録弥

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)片語《かたこと》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「火+亢」、第4水準2−79−62]

 [#…]:返り点
 (例)不[#レ]知
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「行きますか?」
 片語《かたこと》の日本語でかう李が言ふと、
 Hは、
「何うします?」と言つて私の方を見た。
「ちよつと見るだけ見たいんだが、さういふわけには行きませんか」
「それは行きますとも……」
「買つて見るなどといふ興味は無論ないんですから――」
「好う御座んす……」
 Hはブロオクンな支那語で何か頻りに李に話した。李も手真似をして頻りに何か言つてゐたが、やがてそれが飲み込めたといふやうにして点頭いて見せた。
 自動車は私達をのせて動き出した。それは露天市場を見物に行つた帰途であつた。狭い小崗子の通りの方へと私達は向つて行つた。
「支那の妓は何うも日本人には向きませんな……」
 これはTだ。
「そんなことはありますまい。廉くつて、親切で、一度はま
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