り込むと、生涯忘れられないといふぢやありませんか?」
「さういふ人もあるかも知れませんけれども、何うも汚なくつていやだね。不愉快だね。H君は何うだえ?」
「僕もイヤだね?」
「しかし、それは始めの中だけでせう。深くなれば、同じことでせう。色恋は汚ないものぢやないですか? また汚ない方が好いつていふぢやないですか?」
「変態性慾の方ならさうかも知れないでせうけれど――」
 私達はそのまゝ黙つた。
 自動車はいつか細い狭い通りを此方から向うへ抜けやう抜けやうとして努力してゐた。庇の低い混雑した店屋が暫し続いたかと思ふと、今度は高い塀のやうなものがあらはれて、それがずつと狭斜らしい感じのする巷路へと入つて行つた。
 ある一構への家屋の前で自動車はぴたりと留つた。李を先きに皆なは下りた。
 私の眼には、中庭を二階で囲つたやうな家が映つた。入口までずつと石を敷きつめたやうな家が映つた。狭斜は狭斜でも、下等なところらしく、入口が二たところもあつて、その上のところに妓の名の書いた札のかかげられてあるのを私達は見た。一つは張鳳と書いてあつた。もう一つの方は張飛郷と書いてあつた。見事な小楷だつた。
「女
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