郎屋かね? こゝは?」
 私は訊いた。
「いや、芸者屋です――」
「ちよつと女郎屋のやうな感じがするぢやないか」
 こんなことを言ひながら、私達は李のあとについて、その手前の張飛郷と書いてある方の家へと入つて行つた。
 やり手らしい五十先の肥つた丈の低い女が出て来て、何か頻りに李と話してゐたが、余り好い客でないといふことがわかると、いくらか落胆したといふやうな様子で、迎へ入れるには入れても、余りちやほやしなかつた。室は八畳ぐらゐの広さで、※[#「火+亢」、第4水準2−79−62]の上に茶湯台がひとつ置かれてあつた。奥には三畳ぐらゐの寝室があつて、枕の並べ置いてあるのが白い幔幕の間からそれと覗かれた。
「何うも、これが――この寝室が感じが好くないね。何処に行つても皆これだからな」
「本当だね。矢張、先生方は寝る専門なんだなあ!」
 TとHとはこんなことを言つてその室《へや》を覗くやうにした。
「これだけかね?」私はあつけないといふやうな調子で、「此処で酒でも飲んで、あとは寝るばかりかね?」
「さうです……殺風景なもんですよ。先生方の女買ひといふものは?」
 これはHである。
「しかし折角
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