思つて居た。であるのに、昨夜電話をかけると女はすぐやつて来て、それからの恋心の復活、何処にもさうした自由な歓楽はあり得まいと思はれるほどの恋のエクスタシイ――今朝目覚めた時には二人は顔を見合せずには居られなかつたことを、Bは繰返した。
「でもあとで困るといけないよ」
「心配なさらなくつて好いのよ……。それよりも、私、東京に帰りたくなつちやつた!」
「馬鹿な!」
Bは笑つて見せた。
「伴れてつて下さい! ね? ね?」
とても出来ないのをちやんと承知してゐて、しかもわざと甘へるやうに時子は言つた。時子はベツドの傍《そば》にある洗面所で顔を洗つて髪を梳いて、白粉《おしろい》をさつと刷毛で刷いて綺麗になつてゐた。
「……………………」
「駄目?」
男の顔をじつと見て、
「どうしてかう人間と云ふものは思ひのまゝにならないものなんでせうね!」
「…………」
「だつて、さうぢやないの? こんなに思合つてゐるものが何故《なぜ》一緒になれずに、こんなに遠く離れて暮さなけりやならないの? それがこの世の義理?」
「…………」
「男ツてのんきね。何とも思つてゐないんですものね?」
「…………」
「ね?
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