いて、なかなかしゃれた食べ物である。ざらにある魚でありながら、鍋料理中もっとも乙なものとされ、高級層にも下級層にも賞味されている。しかも、それが骨以外捨てどころのないという魚で、肉を除いてはことごとくうまいところだらけである。この点、珍しく雅俗混合《がぞくこんごう》の趣味を有し、味にも、見た目にも、ユーモアたっぷりで、親しめることおびただしい。
ところで、問題の白色なるあんこうの肉、食って食えないこともない故に、殊さらに捨てられもせず食用に供されてはいるものの、とびついて食うほどの者はいない。いわんや肉だけを好んで食う者など一人もあるまい。わたしの経験からいえば、魚屋に前もって「肉はいらないよ」と断っているくらいだ。その代わり、他の部分は全部所望する。他の部分とは、吊り切りにした皮、鰭、臓物、とりわけ肝である。というわけで、肉が食いたくてあんこうを買う者はまずないであろう。Kさんが鰐《わに》の肉塊をあんこうと称して贈ったかどうか知らないが、この話はてんで問題にならないのだ。
あんこうとして家中の者に与えるなど、いよいよ問題にならない。一見して変だとは疑いながらも、庖丁《ほうちょう》
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