かしく、位人臣をきわめたとて、美術と料理は分りにくいようである。その難問題をいとも簡単に勘所を掴《つか》んで説き起こし、説き去られるということは女史の聡明さを証明するものであろう。欲をいえば、今少し急がず落ち着き払って経験を積まれたら、味覚界で末恐ろしいひとになるのではないかと思っている。だが、熱海でのわにの話のようなものは、猿も樹《き》から落ちる譬《たと》えのように福島女史の図らざりし不覚であろう。
 女史がKさんというわに屋からもらったという偽《にせ》あんこうの件はまったく外人的で、あんこうに対する彼女の無知、無経験が生んだナンセンス。おかしくておかしくて、その無邪気さに一時笑いがとまらなかった。
 偽あんこうを贈ったKさんは、もとよりわにのつもりで女史の不在中においていったらしい。Kさんはわにの死肉だけを一片持って、相手をたぶらかさんものとなめてかかり、彼女も一応ひっかかってしまったのであるからおもしろい。「そのひとを知らんと欲せば、まずその友を見よ」というところである。
 わには知らないが、もともとあんこうという魚は、鍋料理にするとすてきにうまい魚である。脂肪、ゼラチンに富んで
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