鮑の宿借り作り
北大路魯山人

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)注《さ》して
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 これは美食倶楽部時代の創案になるもので、今では茶寮料理の名物の一つに数えられている。
 原料のあわびは房州のもの、関西方面では伊勢鳥羽浦、山陰では舞鶴あたりから相当いいものが出るが、茶寮では東西ともに房州のものを用いている。房州のあわびには雌が多く、雌は身が厚く赤味があってもっとも優れている。あわびの雄はどうしても身が固く、時期は今ごろから夏にかけてがよい。新緑の頃には、貝に身がついてくるのである。いわば、その身が若々しくなってくるのである。
 料理法としてはまず貝から身を外して、塩洗いし、わたも取らずにそのままおろしだいこんをのせて蒸す。八十度ぐらいの熱で二十五分ぐらい蒸すが、その加減は貝にもよる。ちなみにあわびは蒸せば蒸すほどやわらかくなる。だがやわらかくなるにしたがって味が抜けるものであるから、なんでもやわらかくすればいいと思うのは間違いである。
 蒸し上げたら充分に冷ましてから、姿なりに薄く切る。そして、よりうどにきゅうりなどを二寸ぐらいに切り、それを千切りにし
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