料理芝居
北大路魯山人

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)騙《だま》し

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)夫婦|喧嘩《げんか》
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 良寛は「好まぬものが三つある」とて、歌詠みの歌と書家の書と料理屋の料理とを挙げている。まったくその通りであって、その通りその通りと、なんべんでも声を大にしたい。料理人の料理や、書家の書や、画家の絵というものに、大したもののないことは、われわれの日ごろ切実に感じているところである。
 しからばこれはなにがためであろうか。
 良寛のいうのは、料理人の料理とか書家の書というようなものが、いずれもヨソユキの虚飾そのものであって、真実がないからいかんといっているに違いない。つまり、作りものはいけないということだ。
 だが、わたしの思うには、家庭料理をそのまま料理屋の料理にすることができるか、といえば、それはできない、客は来ないからだ。明らかに家庭料理と料理屋の料理とにはなんとも仕方のない区別がある。
 その区別はなにか。家庭料理は、いわば本当の料理の真心であって、料理屋の料理はこれを美化し、形式化したもので虚飾で
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