こと。その程度の煮加減を選ぶがよく、とにかく、熱いのを吹き吹き食う妙味は、初春の楽しみの一つである。
納豆雑炊《なっとうぞうすい》
納豆が嫌いとあっては話にならないが、納豆好きだとすれば、こんなに簡単に、こんなに調子の高い、こんなに廉価《れんか》な雑炊はないといったくらいのものである。これも前と同じく、お粥《かゆ》を拵《こしら》えて、粥の量の四分の一か五分の一の納豆を加え、五分もしたら火からおろせばよい。納豆はそのまま混ぜてもよいが、普通に納豆を食べる場合と同じように、醤油《しょうゆ》、辛子《からし》、ねぎの薬味《やくみ》切を加えて、充分|粘《ねば》るまでかき混ぜたものを入れるとよい。雑炊の上から煎茶《せんちゃ》のうまいのをかけて食べるのもよい。通人《つうじん》の仕事である。水戸《みと》方面の小粒納豆があれば、さらに申し分ないが、普通の納豆でも結構いただけることを、私は太鼓判《たいこばん》を捺《お》して保証する。
餅《もち》雑炊
餅の雑炊は、正月の餅のかけら、鏡餅のかけらなどを適宜《てきぎ》に入れてお粥を煮ることである。出来たお粥に焼いた餅を入れてもよい。粥と餅とのなじみがおいしい雑炊なのである。
塩加減で食べてもうまく、そば出し汁程度の出汁《だし》、あるいは味噌汁《みそしる》をかけて食べるのもよい。これに納豆を加えると、さらにうまい。焼きのり、炒《い》りごま、七味《しちみ》、薬味ねぎなどを、好みに応じて加えれば申し分なしといえる。
猪肉《いのしし》雑炊
これもまずお粥を拵えることである。いのししの肉は牛肉や鶏のように大《たい》してうまい味があるというものではないから、白色の脂身《あぶらみ》が入用《いりよう》である。白い脂身と赤い肉と混ざったものを細かに切り、皮山椒《かわざんしょう》を少々加えて、別の鍋《なべ》に淡泊な味付けで汁たくさんに煮る。これに生《なま》の薬味ねぎを加えてお粥と混ぜ合わせ、すぐに食べることである。混ぜ合わせて、再び煮返えすと、その味はあくどくなる。いのしし肉の分量は、粥の六分の一ほどでよい。だいこんを千切りにしたものを、いのしし肉といっしょに煮て加えることは、だいこんなしから見れば上々吉、しいたけをきざみ込むのもよい。
そのかわり、夜食にこれで満腹すると、その夜は暖まり過ぎて寝られない。このこと御用心、御用心。しか肉雑炊も同断、
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