かなし得ない。こんな料理で育てられた人間は、それだけの人間にしかなり得ない。
     *
 料理といっても数々ござる。料理屋の料理、家庭料理、富者《ふしゃ》の好む料理、貧者の料理、サラリーマン級の料理、都会料理、田舎《いなか》料理、老人好み、若人《わこうど》好み、少年少女向き、病人向き……。すべからく料理をつくる者は、この別を心得、いやしくも自分の好みだけを押しつけてはならない。
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 これほど深い、これほどに知らねばならない味覚の世界のあることを銘記《めいき》せよ。
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 料理の世界にしても、これですべてがわかったという自惚《うぬぼ》れは許されぬ。いつもいつも夢想だに出来ないことが存在することを知らねばならぬ。
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 飽きるところから新しい料理は生まれる。
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 私が自分自身でふしぎなと思われるくらい考えつづけているのは食物、すなわち、美味探究である。つまらないものを食って、一向気にしない人間を見ると馬鹿にしたくなる。私は今でも自炊《じすい》している。三度三度自己満足できない食事では、すますことができないからだ。美食の一生を望んでいる。傾聴《
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