用事をするが、目をはなすと、さっそく怠けている。
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 どうしても料理を美味《おい》しくつくれない人種がある。私はその人種を知っている。その名を不精者《ぶしょうもの》という。
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 餅《もち》の中にも食べられぬ餅がある。やきもち、しりもち、提灯《ちょうちん》もち、とりもち。
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 煮ても焼いても食えぬというしろもの[#「しろもの」に傍点]がある。せっかくの材料を煮たり焼いたりしたために、かえって食えなくしてしまう人もいる。お化粧したために、せっかくの美人がお化けになってしまうことだってある。
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 ラジオで料理講習しているのをときどき聞いている。まさか豚や犬に食わす料理の講習ではあるまいな。豚や犬に食わせるようなものを配給したりするから、そこでラジオも、豚や犬に食わす料理を放送せねばならなくなるらしい。これは辛抱《しんぼう》料理ばかりだ。そして今に、優生学の講習の後で、おそらく種男を募集するつもりだろう。
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 客になって料理を出されたら、よろこんでさっそくいただくがよろしい。遠慮しているうちに、もてなした人の心も、料理も冷《さ》めて、不味《まず》くなったものを食わねばならぬ。しかも、遠慮した奴《やつ》にかぎって、食べ出せばたいがい大食いである。
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 腹が空《へ》ってもひもじゅうない、というようなものには食わせなくてもよい。
 腹がいっぱいでもまだ食いたい、というようなやつにも食わせなくてもよい。
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 食事の時間がきたら食事をするという人がある。食事の時間だから食べるのではなく、腹が空ったから食べるのでなければ、美味《おい》しくはない。美味しいと思わぬものは、栄養にはならぬ。美味しいものは必ず栄養になる。
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 心配するな、舌のあるうちは飢えぬ。
 だが、女と胃袋には気をつけよ。
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 腹が空っては戦《いく》さが出来ぬ。戦さをしなくなった日本に、腹が空ることだけを残してくれたのは悲劇だろうか。そんなら、なにを食べても美味しくはないという金持の生活は喜劇か。悲劇は希望を求め、喜劇は希望を忘れている。
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 一に加える一は二なり。万歳《まんざい》は一加える一は三。万歳は二人でしゃべる。二人でしゃべるから一人でしゃべる時の二倍のボリュームがあるかというと、さにあらず、そ
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