と思ったからである。
 とにかく、ひと口にまぐろといっても、こうなると、なかなか最上はおいそれと口にのぼらぬわけである。食う方を語らずに、うかうか脱線して、どうでもよいことをくどくどしゃべりすぎた。これから食う方の経験を一、二述べてみよう。
 まぐろ通《つう》から存外《ぞんがい》等閑《とうかん》に付されているものは、大根おろしである。
「この大根おろしはいけないや、もっと生きのよい大根をおろしてくれないかなあ」
 というような方は滅多《めった》にない。わさびのことは、色・辛《から》さ・甘さ・ねばりなどをやかましくいう食通はあるが、大根おろしの苦情を聴くことは、ほとんどない。ところが、まぐろとか、てんぷらというものは、おろしのよしあしで、ずいぶん風味に大《だい》なる影響があるものである。てんぷらなどは畑から抜きたての大根のおろしがあれば、油の少しわるいくらいは苦にならぬものである。抜きたての大根で、辛味《からみ》が適当であれば、まぐろなどはわさびの必要がないくらいである。大根がわるいからわさびが入用《いりよう》だが、元来、わさびはまぐろに好適というものではない。おろしさえよければ、わさび
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