津、小田原|辺《あたり》からくるものが江戸前である。かじきは房州銚子《ぼうしゅうちょうし》、東北三陸よりの入荷が一番とされている。長崎からもくる。以上のように、宮古《みやこ》のしびまぐろ岸網《きしあみ》ものを第一として、これから季節とともに、だんだんとまぐろ好きをよろこばす次第である。
 まぐろの話をすると思い出すが、かつて私は大膳頭《だいぜんがしら》であった上野さんに、宮古のまぐろをすすめたことがある。その時、上野さんは、
「こんな美味いまぐろを未だかつて食べたことがない」
 といわれた。必ずしもお世辞ばかりではなかったらしい。われわれから考えると、いやしくも宮内省《くないしょう》の大膳頭である。およそ天下の美食という美食、最上という最上、知らざるものなしといった調子のものであろうと想像していたのとは、案外の言葉を聴いたのであった。それならばと、このまぐろは宮古の産であって、この肉はしかじかの部分だということを説明した。上野さんの頭の中には、御上《おかみ》のさる御一人が、まぐろを好ませ給《たま》うので、このような最上のものがあるとするなら、献上してみたいという考えがあったのではないか
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