まりバカにならぬことになった。というのは、これを油漬けにしてサンドイッチに使ったというのである。すなわち、米国では鬢長《びんなが》まぐろのサンドイッチを発明してこれが流行したのである。日本では薄遇《はくぐう》の鬢長、米国にもてるというので、一昨年のことだ、漁村の仲買人《なかがいにん》はいっせいに輸出準備をしたのであったが、時も時、鬢長君なにを感じるところあったか、自身米国近海に遊泳したので、昨年は米国において鬢長大漁とあって、日本の鬢長は再び断髪《だんぱつ》流行の日本に薄遇をこうむることになった。
 まだこのほかに東京人の賞美するまぐろの類《たぐい》に、かじきがあり、きはだがある。また、めじという小さなのがあるが、これはその味わいもまぐろの感じよりかつおに近く、これを賞美する方も、その感じで食っているからまぐろとしての話柄《わへい》から除く。さて、このきはだやかじきという奴《やつ》も、東京には年中あるようなものだが、十二月より三月ごろにかけてあるものは、おおむね台湾《たいわん》からやってくるので、いわゆる江戸前《えどまえ》の美味《うま》さはない。なんといっても、きはだは八、九月ごろ、沼
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