やはりいろいろあるとお返事するより仕方がないでしょう」
「ホホホ」
 ここでもまた歌人は笑う。ホホホといったのだからケキョと啼くかと思えるばかりのあでやかな声である。
 あまり長居されても困るので、こっちから話し出さねばならぬ。
「うぐいすに配するなら、さしずめ梅というところでしょうね」
 女流歌人は、意外という顔つきで、こんどは笑わない。
「先生」
「うん……」
「梅にうぐいすでございますか」
「さよう」
「あの、梅にうぐいすなどは、歌の方で申せば、あまり使い古されておりますんでございますが……いかがなものでございましょう?」
「使い古されているのは、歌のほうの話でしょう。梅は年々新しい蕾《つぼみ》を持つ、うぐいすは年|毎《ごと》に新しく生まれますよ、奥さん」
 彼女はいおうかいうまいかと、しばしハンカチをひねっていたが、思い切っていった。
「先生、梅にうぐいすでは、あの、あまり陳腐ではございませんでしょうか」
 わたしは呆《あき》れて尋ねた。
「それでは伺いましょう。あなたはなんのために歌を作られるのでしょう。いや、なんのためといって悪ければ、なにを表現しようとなさいますか」
「そ
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