と考えた。
 そこで、
「あなたは歌を作られるそうだが、どうですか、まあ歌のことから考えてみてください。うぐいすの歌を作ろうと思われたら、いや作りたい時に、うぐいすにはなにを配しますか」
 歌人はつつましく、ハンカチをひねくりまわしつつ、ちらりとわたしを見ていう。
「うぐいすの歌でございますか」
「さよう、あのホーホケと啼《な》くうぐいすのことですよ」
 歌人はつつましく笑う。
 なにがおかしいのかわたしにはわからぬが歌人は笑う。大ていの女のひとというものは、おかしくなくとも、なにかいわねばならぬ時には笑うものだと思っているから、別にわたしが笑われたと思っていないが、この歌人も女の例にもれずホホと笑った。まさかうぐいすの真似ではあるまい。
「あの、うぐいすの歌を作ると申しましても、それはいろいろございますわ、ホホ」
 ここでまた歌人は笑う。女のひとはいくつですかと聞かれると、大ていホホホと笑う。いいお天気ですね、といってもホホホと笑う。そんなに楽しいかというとそうではない。楽しくなくとも笑うものらしい。
 わたしはそこで、
「料理だって、まぐろの刺身と、なんとを取り合わせるといっても、
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