。昔武士が「尋常に勝負」といって立ち向かうが、あの真剣な態度が星岡だ。大坊ちゃんの仕事だ。さもなくば名士が相手にならないよ。こんなことはひとがいうことだけれども、誰もいわないから僕がいうんだ。半分だけみて、坊やとあなどると失敗するよ。むずかしい大坊ちゃんだ。そういう意味において、豊臣秀吉なんかも酢でもこんにゃくでも食えない大々的な坊ちゃんらしい。だから大物になれる。けちな欲気なんか少しも持っていないのが太閤《たいこう》だ。

       鰻の下拵え

 すずきのごとき魚も洗いにしてうまいものだが、東京の職人のこの作り方をよく心得ているものが少ない。また、うなぎのごときも東京には本物のうなぎが少なく、ほとんど養殖ものばかりといっていい状態だが、このうなぎの扱い方などをみているとなかなかおもしろい。
 これは東京の職人がだんぜんうまいね。うなぎというものは、素人にはちょっといじれない。ところが法を心得ているものには実に簡単だ。その第一のコツは、自分の手を水温くらいに冷たくしておくことだ。そしてこの冷たい手でうなぎの尻の部分を軽く握るんだね。すると、うなぎは前へ逃げるかと思うと、反対に手の
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