たものなんだね。そこであの笹乃雪なるあん掛豆腐を食ったりしたものだが、これが小さいものだから、二十や三十くらい食うのは瞬く間だね。中には五十も六十も食うということを自慢にしているものもある。それから僕は一人でもよくここへ出かけた。行きかけるとどこでも、舌が徹頭徹尾承認するまで行くんだね。そんなわけだから自分の給料というものは、まったく食う一方に使われた。だから友達の中にはうらやましがっているのもあったね……。
朝鮮の牛肉
徹底的に食うということでは、朝鮮へ行った時のことだが、二十四、五歳のころだ。朝鮮にはうまいものはまずない。ところが朝鮮の牛肉が割合にうまかった。もっとも他に食うものがないからでもあったが、牛肉がうまいというので、その話をある男にすると、いくら美味しくても一カ月とは食えまいという。いやそんなことがあるもんかというので、毎日牛肉を食った。そしてついつい半年食いつづけた。
しかし、さすが半年食いつづけたら、しまいには少しいやになったね。
朝鮮時代の食い物で今でも覚えているのは、親子丼の味だね。僕は当時これでも書家をもって立っていたんだが、職務は軍属で
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