かいわない、湿っぽい匂《にお》いのするのはだめです。
 ところで、みなさんのご家庭では鉋《かんな》をもっておられましょうか。切れ味のよい鉋でなければ、完全にかつおぶしを削ることはできません。赤錆《あかさび》になったり、刃の鈍くなったもので、ゴリゴリとごつく削っていたのでは、かつおぶしが例え一円のものでも、五十銭の値打ちもしないものになります。どんなふうに削ったのがいい出汁になるのかと申しますと、削ったかつおぶしがまるで雁皮紙《がんぴし》のごとく薄く、ガラスのように光沢あるものでないといけないのであります。こういうのでないと、よい出汁が出ないのであります。削り下手《べた》なかつおぶしは、死んだ出汁が出ます。生きたいい出汁をつくるには、どうしても上等のよく切れる鉋を持たねばなりません。そして出汁を取るには、グラグラッと湯のたぎるところへ、サッと入れた瞬間、充分に出汁ができているのです。それを、いつまでも入れておいて、クタクタ煮るのでは、碌《ろく》な出汁は出ず、かえって味を損うばかりです。いわゆる二番出汁というようなものにしてはいけません。それで刃のよく切れる、台の平らな鉋をお持ちになられる
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