好《しこう》を見分け、老若男女いずれにも、その要求が叶《かな》うようでなくてはなりません。相手の腹が空《す》いているかどうか、この前にはどんなものを食べているとか、量とか質とか、平常の生活とか、現在の身体の加減とかを考慮に入れなければなりません。それは充分、料理の体験がなくてはならぬことであろうと思います。
 甘い、辛《から》いということも、甘ければ甘いで美味《うま》く、辛ければ辛いで美味いというふうに、どんな味であっても嗜好に叶うという、すなわち、ものの道理に背《そむ》かない味でなくてはなりません。それですから、ただ眼《め》で見ることばかりではだめでありますし、また、料理は舌の上が美味いのみでも足りません。まず目先が変わるとか、色彩の用意が異なるとかいうことで、つまり、感覚の全体に訴えて満足するとか、美味くなるという総大観になるのであります。名医となることも、名料理人になることも、容易ではありません。

原料第一――選定
 さて、原料は鳥にしても、あまり成熟しない中くらいのものがよろしいのでありまして、真に賞味出来るのは、そういうものであります。たいについて申しましても、四、五百|匁
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