精選とともに材料の原味を殺さぬこと、その味というものは、科学や人為《じんい》では出来ないものでありますから、それを貴《とうと》ぶのであります。
昆布《こぶ》、鰹節《かつおぶし》――選定および出汁《だし》の取り方・削《けず》り方
料理には出汁が必要であります。出汁はふつうかつおぶしが使われて、東京では、あまりこぶは使わないようでありますが、出汁には、やはりこの両方とも、うまく使うのがよろしいと思います。それでどういうこぶがよいか、どういうかつおぶしがよいかということをお話しいたさねばなりません。東京ではどういうものですかあまりこぶの出汁を使わないようでありますが、ぜひとも、かつおぶしの出汁とこぶの出汁とは使い分けして使うがよいと思います。こぶにしても、かつおぶしにしても、土産《みやげ》物にもらったとか、あり合わせのというのでは、どうもおもしろくありません。
かつおぶしはどういうふうにして削るか、どういうふうにして材料を選択するか。かつおぶしとかつおぶしとを叩《たた》き合わすと、カンカンとまるで拍子木《ひょうしぎ》を鳴らすみたいな音でないといけません。虫の入った木のような、ポトポトしかいわない、湿っぽい匂《にお》いのするのはだめです。
ところで、みなさんのご家庭では鉋《かんな》をもっておられましょうか。切れ味のよい鉋でなければ、完全にかつおぶしを削ることはできません。赤錆《あかさび》になったり、刃の鈍くなったもので、ゴリゴリとごつく削っていたのでは、かつおぶしが例え一円のものでも、五十銭の値打ちもしないものになります。どんなふうに削ったのがいい出汁になるのかと申しますと、削ったかつおぶしがまるで雁皮紙《がんぴし》のごとく薄く、ガラスのように光沢あるものでないといけないのであります。こういうのでないと、よい出汁が出ないのであります。削り下手《べた》なかつおぶしは、死んだ出汁が出ます。生きたいい出汁をつくるには、どうしても上等のよく切れる鉋を持たねばなりません。そして出汁を取るには、グラグラッと湯のたぎるところへ、サッと入れた瞬間、充分に出汁ができているのです。それを、いつまでも入れておいて、クタクタ煮るのでは、碌《ろく》な出汁は出ず、かえって味を損うばかりです。いわゆる二番出汁というようなものにしてはいけません。それで刃のよく切れる、台の平らな鉋をお持ちになられる
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