並べるようであるが、あまり感心しない。ふぐみたいなものは大皿に並べざるを得ないが、それは特殊なことであって、「なべ料理」の材料を盛るのは、深鉢《ふかばち》にこんもりと盛るのがよろしい。材料はさっき述べた通り、なんでもよい。ただ感心しないのは貝類である。貝類は、ほんのわずかならかまわないが、多く使うと、どうも味を悪くするキライがある。貝類は結局だしをわるくして、ほかのものの味まで害するからいけない。また、貝類はさかなや肉にも調和しない。外国料理は、シチュー、カレー、スープの中によく貝を使っているが、マッチしていないのが多い。これは、外国には貝類も魚類も少ないので重宝《ちょうほう》がっているせいだろうが、料理の味をこわしているのが大方《おおかた》だ。
 それとは逆に、日本では貝類がいくらでも取れるので、ぞんざいに使用しているようだ。貝類を多量に使用すると、あくどい料理になってしまうので、よい料理とはいえない。貝類はなるべく混合させぬ方がよいだろう。
 さて、だしのことだが、人によって好みはさまざまである。あっさりしたのが好きだという人もある。あっさりしたのは、たいがい酒を飲む人に向く。飯《めし》を食うのには、いくらか味の強いのがよいかも知れない。この辺も「寄せなべ」は自分の好み通りにいくから、まことにもってこいの料理である。
 たれ[#「たれ」に傍点]はあらかじめちゃんと調合してつくっておくことが大切である。初めから終りまで一定の味のたれ[#「たれ」に傍点]でやるのでないと、材料がかわるたびに、砂糖を入れる、醤油《しょうゆ》を入れる、水を入れるという具合で、甘かったり、辛《から》かったり、水っぽかったり、味がまちまちになってしまう。それではおもしろくない。また、幾人もが代わるがわる世話をすると、必ずこういうことになる。ひとりきりで世話をするにしても、味加減というものは、厳密に一致するとはいえないから、どうしても、前もって料理に必要な分量だけつくっておくのがよい。味はあまり強めでないのがよいが、これはその家の風《ふう》でこしらえるのがよいと思う。たれをつくるには、すでにご承知であろうが、砂糖と醤油と酒とを適当に混和する。酒はふんだんに使うのがよろしい。かんざましでよい。アルコール分は含まれていなくていいのだし、飲んで酔おうというのとは異なるから、かんざましでよいわけである
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