伝不習乎
北大路魯山人

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)風采《ふうさい》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)芸妓|面《づら》
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 昔の料理は至極簡単なものであった。今日の料理は至極複雑である。しかし、どっちが本当に美味を持っていたかというと、昔の簡単な料理に軍配が挙がる。少なくとも今日の料理が次第にインチキ料理になりつつあることは争われぬ事実である。それはなぜかといえば、料理法は簡単素朴なものであったが、材料がしっかりしたものであったからだ。
 こんど某会館で魚料理を始めた。僕も開業の日に行ってみた。食べ物についてはぜいたくな紳士で知られている○氏が経営者で、その料理人というのが、フランスの有名な魚料理店に七年とか十年とかいたという男であるというのが看板で、相当期待をかけていたらしい。
 ところが行ってみると、そこに並べてある材料の魚を見ると、その魚がどれもこれも二等品、三等品なのだから、あきれて物がいえない。
 ちょうど僕がいる時に○氏が出て来て、支配人に料理はなんでもうまくなければいかんぞ、まずかったらあかんぞとどなっていた。
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