労した上、残肴の整理など大変だと事務的に考えがちのものだが、生かさずにはおれないという生一本の性根がほしい。好きの道だからこそ、ここが大切なのだ。心の底から料理が好きという人間なら、これくらいのことは良識、良心の両杖《りょうじょう》で実行できるものである。
残肴の活用はわたしのいささか得意とするところであるためだろう、くどくどというが、諸君の中には家庭をもったひともいる。残肴の揚げものはぜひ二、三片でもいい、家に持って帰れば、家族がどんなに喜ぶか知れない。甘だいの大きな照り焼きの残ったものなど、菜っ葉や豆腐といっしょに煮て食べるといったように、一家を楽園にする道もある。
なるほどと得心がゆけば、常に残肴の係などの責任者をつくり、真剣に与えられた材料をなんとか生かして欲しい。ものの働きがあるうちは充分働かせ、その効用をせいぜい能率的にこの世に残してゆく。料理人にかぎらず、このことは人生に処する人間の心がけでなくてはならないと思う。また、こういうところから、料理の発明も発見も生ずるのである。
底本:「魯山人の美食手帖」グルメ文庫、角川春樹事務所
2008(平成20)年4月1
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