雑煮
北大路魯山人
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)贅沢《ぜいたく》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)丁度|鼈甲《べっこう》
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季節にちなんで、お雑煮の話をしたいと思う。
いったいお雑煮は、子供の時分から食べ慣れた故郷の地方色あるやり方が、いちばん趣味的で意義がある。
主婦の心がけ次第で、第一日は地方色豊かなお国風雑煮、二日目からは東京風の贅沢《ぜいたく》な、賑《にぎ》わいのある楽しいもの、というようにすれば、家族に喜ばれること請け合いだ。
かといって、強いてそうせねばならぬという理由はないのだから、各自の好みに任せてよい、とまずご承知おき願いたい。
わたしの経験からいうと、雑煮の中を賑々しくするためには、にんじんとか、だいこん、いもなどを入れる方がよいだろう。いもなども、原形のままの方が野趣があっておもしろい。なにか変わった趣を添えたいような場合には、いもに角目《かどめ》を立てて削るのも悪くない。が、あまり細工をせずに作る方がよいと思う。
だしは普通のかつおぶしだけでとるか、あるいは昆布だしにするのもよろしい。また、冬になると、焼きはぜなどよく贈られる家庭もあろうが、焼きはぜをだしに用いると、特殊の風味が出て楽しめる。
さて、いちばん肝要なのは、餅の焼き方である。昔から狐《きつね》色に焼くのを最上としておったようだが、ところどころ濃く、ところどころ狐色に丁度|鼈甲《べっこう》の斑《ふ》を思わせるように焼くのが理想的である。そして、餅の堅い、やわらかいの程度によって、火の加減をしないと、中身が堅いのに表面ばかり焦げたり、白くしなしなしてしまったりする。
雑煮のコツは、餅の焼き方にあるといってよいと思う。また、不細工に大きな餅のはいっているのはおもしろくない。ことに朝から屠蘇《とそ》機嫌でいるところへ大きいのを出すのは気が利かない。
料理屋で出す小型マッチ箱ぐらいの大きさが、見た目の感じがよい。でも、客次第で餅の大きさも加減したらよい。若い者たちには多少体裁が不格好でも、大きいのを入れた方が歓迎されよう。出す相手と場合に応じて、それ相応のもてなしをすることは、単に雑煮だけにかぎらず、何事においても必須条件である。
白味噌の雑煮なども、変わっていてうまいものである。それから、のりは良質のもの―
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