材料か料理か
北大路魯山人

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)飲《の》まねば
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 おいしいごちそうを作るにはどうしたらよいでしょうか? などという声をよく聞く。
 おいしいものとはなにか、ということをまず考えてみよう。人間は習慣の動物である。
 毎日、必ずコーヒーを飲《の》まねばいられぬ、というひとがいる。また、たばこを止められぬひともいる。そんなひとにコーヒーはそんなにおいしいですか、と聞いてみる。おいしいから止められないのではなく、たいていは習い性《せい》になっていて止められないひとが多い。人間は習慣になったために、その習慣から抜け切れない場合と、毎日重なったために、かえってそれが鼻につく場合とがある。わたしがいおうとするのは、習慣は習慣として、誰でもおいしいと思うものの味の話である。
 十人十色といって、そのたばこにもコーヒーにも、うまいまずいがあるらしい。それぞれ好みが違うかもしれない。だが、この場合のおいしいということは味つけの話で、わたしのいうところはものそのもの、本来の味の話なのだ。つまり、材料の原味そのものの話である。
 だからおいし
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