高野豆腐
北大路魯山人
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)使い甲斐《がい》
−−
これにもよい悪いがずいぶんあるからご注意願いたい。悪いのは、凍らして乾かす時の不出来に由来し、いざというときに固くてものにならないのや、やわらかすぎていけないものなどである。
どのくらいの固さがよいかはむずかしい問題で、固いのになるとカスカスしている。反対にやわらかいのは、もとの豆腐にかえるのもある。カスカスがよいというひとも、やわらかいのがよいというひともある。これは各人の好みによってきめるのが最良で、強いて評価するなら、その中間がいちばんよろしいといえよう。
五目寿司には少しカスカスした高野豆腐でないと使い甲斐《がい》がないから、割合に固めのものを用いるように。
普通の高野豆腐のもどし方は、鍋などに入れて重曹をばらまき、落とし蓋をして、重しを入れ、豆腐の下の方から湯がまわるように熱湯をそそぐ。すると底から温かくなり、しばらくすれば一体にやわらかくなる。
重曹のばらまき方は、豆腐の四方八方、裏表平均に薄くつけるので、ただ熱湯をかけたのでは角のところがうまくやわらかくならないから、四方八方にていねいに重曹をすりこむことを忘れてはならない。しかし、重曹をたくさん入れると、まったく元の豆腐になってしまうから、中間だけが少しカスカスした程度の固さが適当だろう。
そして炭酸が味の邪魔をしてはまずいから、潰《つぶ》れないように手際よく、高野豆腐を水の中に入れて、グーッと絞る。潰れてグチャグチャになったりしては体裁も悪いし味も悪いから、こわれぬように注意することが肝要である。絞り方はちょうど海綿を絞るような具合にすればよい。やわらかいものであればあるほど手際を要するから、やわらかいものの時には注意の上に注意をして絞り出すようにしなくてはならない。炭酸の気《け》のなくなるまで絞らねばならないのだから、少なくとも五、六回は繰り返して絞る必要がある。
高野豆腐のもどし方はむずかしく、一種の秘伝みたいになっていて、玄人でもやすやすできないことを念頭においておく必要があろう。そんなことはなんでもないと思っても、なかなかうまくゆかないもので、京阪の特別料理をつくる料理屋でもうまくゆかないあり様である。たまに名人がある程度だ。
そもそも高野豆腐は、昔、高野山の寒気
次へ
全2ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
北大路 魯山人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング