う場合に使えるかと申しますと、絵でいえば最高なもの、もうこれ以上よい絵はない、これ以上の装飾は日本装飾としてはもうないという位に装飾が施されました時に、その床の間の、卓の名だたる黒文字の卓がありますが、この卓の上に載る香炉というものは青磁の他にはなんにもないものであります。それで一番よいものを一番調子の高い室内装飾として並べた時に、その香炉はなんの香炉が一番適するかというと、青磁の香炉でなければ納まらない。それは物の分った時で、分らなければこの方がおもしろいとかいう一部的の香炉もたくさんありましょうが、よく物が分りますと、鑑賞が行き届き、物の調和ということがよく分りましたら、青磁をぽんと床の間におかないと納まりがつかない。青磁は実に品がよく、近寄って見ると作がよろしい、全体が納まってしまう。他のものではどうしても納まりがつかぬそういう意味におきまして、だんだんと金が出来て、だんだんと立派な家が出来て、立派な道具が家に殖えてきまして、貴人を招待でも致しました時には床の間に青磁の香炉がどうしても要るようになってしまう。そこで相当高くても青磁が欲しいというようなことになる。こういうような関係で青磁の香炉というものは陶磁器の中で一番値段が高いということになっております。それは自分で実験してみるとそのことがよく分るのであります。なるほど他のものを持っていってもどうしても納まりがつかないことがよく分る。

 ですからその次に古陶磁の高いのは茶碗でありますが、御承知の抹茶茶碗でありますが、これは茶の会を致しました時に一番晴れがましいものであります。次にさらに晴れがましいのはなにかと申しますと床の間の掛け物であります。どれもこれも晴れがましいのでありますが、とりわけ主役を致しますものは床の掛け物であり、飲ますところの茶碗である。その茶碗が美術的価値を多く有するということは、その茶会をもっとも効果あらしめることになるのでありまして、自然よい茶碗が欲しいことになります。その茶碗も一つ二つを見ておりますとこれもよいな、これもよいなということになりますが、さてここにこれが一万円、これが三万円、これが十万円と区切りして並べるということになりますと甲乙がよく分るのであります。これはみなさんが、失礼なお話をするようでありますが、靴を一足お買いになりましても、ネクタイをお買いになりましても、一円のネクタイは一円のネクタイ、三円のネクタイは三円のネクタイの美量的値打ちがある。これは一遍自分が験《ため》してみると分ります。シャツでも三円のシャツを買って暖かいと思っても、今度十円のやつを買うとまたそれだけよい。それが五十円のもの、八十円のものとなって、ついに本当の駱駝《らくだ》のシャツが一番よいということになる。全く体験すると一番よく分る。茶碗もその通りであります。そこで金持ちでありますがやはり、金を尊ぶ人程かえってわれわれ貧乏人から見て金を大事にする人が多いのでありますが、その金を尊ぶ金持ちなる者なかなかたやすく五万も十万もの金を出すものではありませぬが、それにかかわらず土で出来たところの茶碗に莫大《ばくだい》な金を出すのであります。これは相当美術を認識しているところからであります。直接目で認識しているもの、常識的に世間なみに認識しているもの、盲目的に有頂点になり人におだてられて買う者などいろいろあります。が結局は古陶磁の値段の高いということは美術品としての価値が高いのだと認めているのであります。値段の一番高いものは最高美術に値することだと思われているのであります。
 それでこの古陶磁の中にもいろいろの産地があります。中国があり、朝鮮があり、日本があります。今日は必ずしも自分のことを宣伝するわけではありませぬが、話をしますとまったくこういう方面で日本製陶がこの頃深く認識されまして、日本陶器のよさということが漸次識者にだんだんと分りつつあるようであります。私どもの経験によりますと、最後は日本で生まれた陶器が一番よいということになります。書の研究も多少私に覚えがあるのでありますが、これもやはり日本の書が一番よいということになります。絵もまた日本の絵が一番よいということになる。建造物もまたそうであります。日本に存在しておりますような、歴史に残っておりますような建造物は中国にも、朝鮮にも決して存在してはおりませぬ。それから古来もともとやかましくいわれておりますが能書はやはり弘法大師であり、道風であり、逸勢《はやなり》であり、あるいは嵯峨天皇のごとき、あるいはずっと降《くだ》りまして三藐院《さんみゃくいん》、近衛公。徳川時代になって物徂徠《ぶつそらい》、あるいは良寛禅師とか、それからもっともよい字を書いたのは大徳寺の高僧たちであります。こういうようなよい字は中国には見られ
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