うことです。それでこの的を狙っているだけです。生むか生まぬかは別問題、現に私ども心やすいので、直接会って本人から怒られるようなことはないから安心して申しますが、仮に横山大観に致しましても、決して立派な芸術を生む人とはいえない。それと私ども古い尊い芸術を知っている者からいいますと、仮に横山大観がこんなところにいるとしましても、これを狙っていることはみな狙っている。今日では狙っていないでしょうけれども、初めはみな狙っていた。そこでこれらの人たちがここにいるから立派なものでありますが、しかしここに推古仏があるとすれば、この作品とこの作品の距離というものは非常な距離でありましてえらいことになるのです。だから私どもこれを知っている人間から見ると、ここらあたりに天平が来る。藤原が来る。鎌倉が来る。徳川が来る。みなずっと知っている者から見ると、もう少し下の方にいるかも知れないことになる。そうしてみますとそんなに尊い芸術じゃない。しかしこっちの方の職工的の部類じゃない。こっちの職工的の部類に例えばどんなものがここにいるかといいますと、みなさんが御承知の通り煙草入の金具を作る最近の人で夏雄なんという人がいる。ああいうのはどこまでいっても職工的であって、的が初めから違っている。これは名人肌でありまして、優れたものでありますから値段も相当高いのでありますがこれは初めから職工的です。それから是真《ぜしん》というようなものでありますが、あれは芸術的なところもないこともありませぬが、だいたい職工的です。これは両方ともそうはっきり水と油と違うように違うわけのものではありませぬので、これに対して両方に跨《また》いでいる。少し芸術的であって、大部分職工的なもの、大部分芸術的なもので、職工的に少し足をかけているというようなものもある。これはみなさんお考えになってもそういうのがあるだろうと思います。
 これはだいたいにおいて芸術的と職工的のお話でありますが、古陶磁の話に戻りまして古陶磁のごとき尊いもの、値段の高いものは、それはなぜそんなに値段が高くなるかといいますと、これは芸術的生命が多いから、古陶は平均して高い。陶器、専門的に磁器というのでありますが、青磁があります。青磁は平均して高いのでありますが、この青磁がなぜ高いかと申しますと、これが出来た年代が宋の時代でありますから、日本の鎌倉時代です。鎌倉時代の作品と申しますとみなさん御承知の文芸の生まれている時代でありますから、なにかにつけこれは鎌倉時代とよくいうように、工芸あるいは絵画としてなかなか尊重に足るものが生まれているのであります。御承知の通りに兼好法師にいわせますと、あの時すでに来世になっておりますが、今から考えますと兼好法師の末世はとても尊い時代であります。それで日本でいえば鎌倉時代に青磁が生まれている。今日京都あたりで出来ますあるいは御承知の蘇山の青磁だとかいうのはなにを当てにそんなものを作るかと申しますと、中国の宋時代に出来た青磁を手本として作るのであります。碪《きぬた》青磁なんといっておりますのはすなわちそれであります。それで青磁というものが宋の時代、日本の鎌倉時代に出来ておりますために、今から考えますと想像も出来ないような巧みな方法で、またそれだけ調子の高いものが出来ております。それでまた色がどのなに色に比べましても陶磁器の中では一番上品な色を持っている。いかにも日本人は上品なものが好きだと見えまして、上品なものを非常に尊ぶ癖がある。中国ではむしろ均窯という方を尊ぶようでありますが、それで文献によりますと、雨過天晴というのがあります。青磁のことをその色を形容いたしまして雨過天晴という。それは雨が止んでしまって青空に晴れた色をしている。ところがこれは均窯の方をいっているのか、青磁の方をいっているのかはっきりいえないのでありますが、中国人にいわせますれば、それは均窯だという。日本人の感じでいうと、雨過天晴というのは青磁だ。こういっております。それは感じでありますからどちらでもよろしいのでありますが、その色もさることながら、その作行《さくゆき》が非常によいのであります。今日一つの刀剣を見ましても、ああいう鎧《よろい》のようなものを見ましても、また仏像を見ましても、鎌倉時代というものはとにかく尊いものであります。中国の宋時代の陶器に鉅鹿《きょろく》なんというものが生まれているのでありますから、作行としてもっとも尊いものが生まれた時であります。その時から青磁が香炉なら香炉、花生《はないけ》なら花生というものが実に立派に出来ております。内容も相当によい、色もよい、そこで青磁の御承知の袴腰《はかまごし》のこういう香炉がありますが、そういうようなものは今日五万、十万、二十万という値をしておりますが、これがどうい
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