過去においてなされた名品というものは、たまたまあったところの天才作家によって作られたものである。今一つは時代の産物である。世界いずれの国にあっても、時代時代のそれぞれ時代にふさわしい物を生んで遺しているであろう。三百年前は三百年前、五百年前は五百年前と、それぞれその時代にあらざれば生まれ得ざるものを遺している。千年前ともなれば、いよいよすばらしい美術を生んでいるのである。
 かく観じ来るとき、作品の美、作品の価値は時代と人で出来ている。優れた名人なしに優れたものは生まれ出ないのだとはっきりいい得られるであろう。しかして、優れた時代が優れた人間を生んだのであると断言し得られるであろう。優れた時代なしに、優れた作人なしに、優れた作品は生まれ出ないであろう。芸術は科学ではない。科学盛んにして芸術衰うというのが今日の時代である。



底本:「魯山人の美食手帖」グルメ文庫、角川春樹事務所
   2008(平成20)年4月18日第1刷発行
底本の親本:「魯山人著作集」五月書房
   1993(平成5)年発行
初出:「陶磁味」
   1947(昭和22)年〜1948(昭和23)年
入力:門田裕
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