、色が若狭ものは淡《うす》赤く桃色であり、興津だいと称する甘だいは通常のたいと同じくらい赤色を呈している。ぐじの方は鱗《うろこ》ごと焼いても食えるが、興津だいの方は剥《は》がさねば食えない。
 ぐじは鱗ごと食うところに風情があるのであって、一部の人々に喜ばれている。たまたま東京のある料理屋で、興津だいを鱗ごと焼いて出されたことがあるが、これは猿真似で大きな失敗である。東京のは鱗をはがして食わねばならない。鱗ごと焼くのは初めから間違いである。
 若狭のぐじは、このようにしゃれた食い方になっているので、それを知っておくことも無駄ではなかろう。また興津だいにも種類があり、白皮《しらかわ》と称されているのがある。白皮とは普通のように皮が赤くなく、薄桃色とか、白いものをいうのであって、東京の魚河岸に行くと普通のたいの二倍、三倍の値がしている。それだけに非常にうまい魚である。肉が柔らかいので生で食うことはないが、焼いて食う場合は見事なものである。
 九州の白皮という甘だいは、関東には少ないが、九州から五島列島に行くと、そればかりのように多い。塩をして持って来るけれど、非常にまずく、従って値も安い。
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