おい質が天然うなぎから遠ざかりすぎるのである。経済ということも一理ではあるが、かといって、いくら金をかけたところで、所詮《しょせん》、人間はうなぎの大好物がなんであるかを知ることは困難のようである。
餌のことをもっとはっきりさせるために、すっぽんを例にとろう。すっぽんの好物は、あさりやその他の小さな、やわらかな貝類である。一枚歯のすっぽんの大腸をみると分るが、彼らは貝を好んで食うために腸内部が貝類で埋っている。だが、すっぽん養殖者は、彼らにその嗜好物《しこうぶつ》を供給してやるのには費用が高くつくので、代わりににしんを食わせる頃がある。すると、いつの間にかすっぽんにもにしんの匂《にお》い、味がして、貝だけを餌《えさ》にしていた時のような美味《うま》[#ルビの「うま」は底本では「うさ」]さが失われて来る。このように餌ひとつで極端にまですっぽんの質に影響があることは見逃せない。
同じように養殖うなぎでもよい餌を食べている時は美味いし、天然のうなぎでも彼らの好む餌にありつけなかった時は、必ずしも美味くはないといえる。要は餌次第である。天然にこしたことはないが、養殖の場合でも、それに近いも
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