してみれば、食を得るための移動なのである。南へ行かねば彼らのくらしがたたない。自己保存のために餌を求めて移動することは、つばめのみならず、動物の本能といってよいだろう。うなぎの移動も自然の理法である。
 ところで、あのひょろ長い、無心(?)の魚どもが、住みなれた河川の餌を食いつくしてしまうと、次へ引越しを開始する。海底の餌がある間はそこに留まっているが、食べつくしてしまうと、ふたたび他へ移行する。六郷《ろくごう》川がよいとか、横浜|本牧《ほんもく》がよいとかいうのは、以上の理由によるもので、どこそこのうなぎというものも、移動先の好餌のあるところを指すわけだ。
 養殖うなぎのように餌をやって育てたものでも、土地や池によって非常な差異が生じている。つくられたものでさえ差異が生じるというのは、一に水のせいもあるし、海から入り込む潮の関係も考えられる。が、なんといっても問題なのは飼料である。飼料によって、うなぎの質に良否の差異が生じて来る。養殖うなぎでも適餌《てきじ》をやれば美味いうなぎになるだろう。だが、うなぎ養殖者は、とかく経済面のみ考えて、できるだけ安価な餌で太らせようとばかり考え、いき
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