ものらしいということだ。
 また、柳川は九州|柳川《やながわ》の換字ではないだろうか――というのもある。柳川は日本一の優良すっぽんの出るところ。一望千里の田野を縫う賽《さい》の目のような月水|濠《ぼり》は、すっぽんとともに優良などじょうを産する。ほかでは見られないまでに、持ち味すばらしく、かつ大量に産し、現に大阪市場にまで持ち込まれている。
 いったいどじょうは癖《くせ》のあるもので、その癖に両面がある。その一面は、どじょうにとって、なくてはならぬ独特の持ち味であるが、他の一面は、下品な臭気を伴うことである。柳川のどじょうは、そのいやな面がまったくなく、まことに結構この上なしのものである。
 すっぽんも、ふつうひと癖もふた癖もいやな癖のあるのを免《まぬか》れないものであるが、柳川産にはそれがない。このめずらしい特色は、今後ますます認識されて、いよいよ市価を高めてゆくであろう。
 柳川どじょうの大もの、五寸ぐらいなのは、蒲焼《かばや》きに適し、うなぎとはぜんぜん異なった風格を有し、心うれしい気の起こるものである。どじょうにかぎって、小さいのを無理に蒲焼きにしても一向あり難《がた》くない。
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