がそうさせたかといえば、それは寿司屋《すしや》が椅子《いす》に変わったせいである。
椅子がなければ昔のように立ち食いをしていたであろうが、現在では立ち食いの店構えを持ちながら椅子を置いている。椅子があれば酒が欲しくなる。これは終戦直後料理屋が不自由であり、いきおい料理が高額であったから、寿司で酒を飲むこと、ついでに飯《めし》を食うことを酒飲みが発見したのである。
これならいろいろの魚が食えて、飯も食えるから料理として満点である。高級料理屋では、自分の好きなものばかり食うわけにはいかないが、寿司屋では、まぐろ、あかがいを食うというように、いろいろなものが食える。この点、食べ物の自由がある。従ってこれほど重宝《ちょうほう》なものはない。しかし、これは、寿司屋と呼ぶより、自由料理屋と呼んだ方がふさわしいように思う。従来とはまったく様式の異なった新日本料理が生まれたのだ。
底本:「魯山人の食卓」グルメ文庫、角川春樹事務所
2004(平成16)年10月18日第1刷発行
2008(平成20)年4月18日第5刷発行
底本の親本:「魯山人著作集」五月書房
1993(平成5)
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