インチキ鮎
北大路魯山人

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)桶《おけ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)タレ[#「タレ」に傍点]
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 前に村井弦斎のわた抜きあゆの愚を述べたが、あゆは名が立派だけにずいぶんいかがわしいものを食わせるところがある。そうしたインチキあゆのことを、少し述べよう。
 東京ではむかし生きたあゆは食えなかった。生きたあゆどころか、はらわたを抜き取ったあゆしか食えなかったので、解釈によっては、昔の東京人はインチキあゆばかり食っていたのだといえないこともない。
 そこへいくと、京都は地形的に恵まれているので、昔から料理屋という料理屋は、家ごとにあゆを生かしておいて食わせる習慣があった。料理屋ばかりでなく、魚屋が一般市民に売り歩く場合にも生きたあゆを売っていたくらいだ。
 わたしたちの子供の時分によく嵯峨桂川あたりからあゆを桶《おけ》に入れて、ちゃぷんちゃぷんと水を躍らせながらかついで売りに来たものである。このちゃぷんちゃぷんと水を躍らせるのに呼吸があって、それがうまくゆかぬとあゆはたちまち死んでしまう。こ
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