アメリカの牛豚
北大路魯山人
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)鋏《はさみ》
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小島政二郎君
シカゴの話の続きを書きます。シカゴでは、もう一軒、アイルランド人の経営している料理屋へ行ってみました。ここはやはりロブスター(伊勢えびの類。ただし伊勢えびには鋏《はさみ》がないが、ロブスターにはザリガニのように大きなはさみがある。はさみの大きさ、全身の三分の二くらい)の料理を売り物にしています。
水族館のように、ガラスのケースの中に塩水を満たし、それがロブスターの生簀《いけす》というわけです。客はガラス越しに見て、好きな大きさの奴を選べば、それをすぐ料理してくれる仕かけになっていますが、味はサンフランシスコのグロット(イタリア料理店)で食べた伊勢えびとは比較にならず、ロブスターは頭が大きいから、もしかしたら脳みそがうまいかも知れないと思い、食べてみましたが一向うまくなく、肉は締まり過ぎていて味がありません。
さて、ニューヨークですが、ここでも土地のひとが最初に案内してくれた家は、アイルランド料理店。ここはカフェテリア式の店で、前もって作ってある肉やサラダを、客が陳列してあるところまで行って、好みに合ったものを自由に取れるようになっています。これでは料理の生命《いのち》ともいうべき新鮮さがなく、不潔感さえあって僕は食べる気になれませんでした。そこで、特に注文してビーフステーキを焼いてもらいましたが、日本の牛肉の方がはるかにうまい。ただし焼き方はわりにようござんした。驚いたことに、ビーフステーキの大きさは日本の三倍もあり、二人で十三ドル五十セント取られました。
概してアメリカの牛豚類の肉は、うまくありません。辛うじて小羊の脇腹の肉が合格程度、ミルクも卵もよろしからず。
ニューヨークについての最初の印象は、アメリカ人の食欲の旺盛さと、食べ方の実に事務的なことです。
例えば、マンハッタンですが、町の一ブロックの角は必ず薬屋《ドラッグ・ストア》が占めています。ここではご存知のように、薬ばかりでなく、郵便切手、日用雑貨からソーダ水、アイスクリームなどを売り、軽い食事もできるようになっています。店の左側がスタンド式の食堂という作りが多い。見ていると、客はたいていハンバーグとケーキ、それにオレンジジュース、このくらいのものを注文して、またた
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