くうちに食べてしまうと、さっさとまた雑踏の中へ紛れ込んで行きます。
ここで満腹するには、二ドルまではかかりません。朝食の場合ですと、トースト十セント、ハムエッグ三十セント、それにコーヒー二十セント、これで充分です。
ニューヨークのイタリア料理店マルキ。ここでのお酒とソーセージのうまかったこと。これは大書するに価します。わけてもリング(たらの類)という魚の空揚《からあ》げは忘れられません。肉離れがよく、外国にもこんなうまい魚があるか、と感心しました。この魚の大きさは一尺五寸から二尺ぐらい。
魚といえば、国連大使沢田廉三さんの公邸でご馳走になったシーバスの刺身は、ちょいと日本にも例の少ないくらいおいしいものでした。
ここで相当名の知れた「都《みやこ》」という日本料理店。すきやきが出ましたが、お相撲《すもう》さんのチャンコ鍋同然で、なにもかもゴッチャに煮ているのには驚きました。聞いたら、主人は新潟生まれ、東京も京都も知らず、参考のために僕がすきやきの模範を示したところ、
「ヘェー、すきやきというものは、そういうふうにして作るものですか」
と目を丸くしていました。呵々《かか》。
五月二日にロンドンに向かって出発します。
底本:「魯山人の美食手帖」グルメ文庫、角川春樹事務所
2008(平成20)年4月18日第1刷発行
底本の親本:「魯山人著作集」五月書房
1993(平成5)年発行
初出:「芸術新潮」
1954(昭和29)年
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2010年1月10日作成
青空文庫作成ファイル:
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